- 民音音楽博物館 「ピアノ誕生300年」 特別展 レポート -
2009年は、ピアノが誕生してちょうど300年目になります。
それを記念して、民音音楽博物館にて「ピアノ誕生300年」の特別展が開催されました。
“展示されたピアノを体感する”という取材依頼を頂き、300年前のピアノから現代に至るまでのさまざまなピアノに触れるという、大変貴重な体験をする事が出来ました。
今回はその時の様子をご報告したいと思います。


音楽之友社「ムジカノーヴァ」2月号に掲載


「ピアノ誕生300年」特別展の様子(全4頁)

* 民音音楽博物館より
2009年は、1709年に楽器の王様といわれる“ピアノ”の原型がイタリアの鍵盤楽器製作者バルトロメオ・クリストフォリによって発明されてからちょうど300年となります。今回の特別展では、ピアノの歴史とその魅力を、当館所蔵の古典ピアノや自動演奏ピアノ、明治・大正期の国産ピアノ、さらに現代のピアノなどの実物展示と解説写真パネルで紹介いたしました。そして、今回の特別展示にあわせて、ジャズ界の巨匠と称されるハービー・ハンコック氏が今日まで愛用してきたスタンウェイ社製グランドピアノの名器も一般公開されました。
また、創立45周年の本年、民音と海外との文化交流は100カ国・地域を数えることとなりました。今日まで交流してまいりました各国の魅力溢れる豊かで多彩な音楽文化もあわせて紹介させていただきました。

〈 取材の様子 〉
取材開始!この日は私の大学時代からの同門でピアニストの冨田理子さん(写真左)にも同行して頂く事が出来ました。そして、ムジカノーヴァ(音楽之友社)の編集スタッフさん、カメラマンの方々と共に民音博物館「ピアノ誕生300年特別展」に向かいました。
まずは上妻重之さん(館長代理)に館内の案内をしていただきました。


〈 ピサ・チェンバロ (1580~1600年、イタリア・ピサまたはフィレンツェ) 〉
製造されてから400年あまりにわたって組み立て方が改造されることなく現存している貴重なもの。
今回展示されたピアノの中で一番古いものでした。譜面台だけは、後から取り付けたそうです。

〈 蓋の内側まで隅々に絵画や彫刻がほどこされた、見事な芸術品!! 〉
とってもかわいくて、こんなピアノだったら練習も楽しくなるかも(笑)
弾いている様子は次の写真です。

タッチによっては音が出ない事も!?
ちなみに弾いているのはバッハの曲ですが、これがっ・・・タッチによってうまく音が出てくれないのです。
現代のピアノを弾くときも、たとえばバッハやモーツァルトの作品と、ショパンなどのロマン派の作品を弾くときでは、タッチを変えないと、音楽の「らしさ」を表現できません。
実際、バッハの時代のチェンバロを弾くとき、現代のピアノでバッハを弾くようなタッチを意識したら、ごく自然に奏でることができました。逆にロマン派のようなタッチ(やわらかさを表現したい時の様なタッチ)だと、まず音がきちんと出ないのです。
やはり作曲家たちはその時代の楽器に合った曲の作り方をしていたのだな、と実感しました。

〈 シュトロームのフォルテピアノ (1793年 ローマ) 〉
貴族のために製作され、楽器本体に中国の庭園が描かれた美しい楽器です。
ヨーロッパの楽器なのに、中国の絵画が施されていたのには不思議な感じがしました。
着物で演奏しても素敵かもしれませんね。

〈 コンラート・グラーフ (1834年 ウィーン) 〉
当時流行していた「トルコ式ペダル」がついていて、これを踏むとトルコ軍楽団の太鼓やベルを模した音が鳴る。
このピアノではもちろん!モーツァルトの“トルコ行進曲”を演奏してみました。
ただ、太鼓の役割をするペダルは右足で踏むようになっていて、(通常のピアノでは右足では音を響かせる役割のペダルとなっています)かなり戸惑いましたが、当時のピアノを演奏できて感無量でした。

〈 エラールのグランドピアノ (1899年 フランス) 〉
ショパンにも愛用されていたフランスのエラール社が1899年に製作したグランドピアノ。
ヴェルサイユ宮殿を思わせる豪華な彫刻が施されていますが、壁側に設置されていたようで、壁に接するとおぼしき側には装飾が全くないというのが、なんとも微笑ましくもありました。


ペダルを足踏みすることで演奏する自動演奏ピアノ。ペダルを踏み続けるには、かなりの体力を要する。
上妻さんが、必死にペダルを踏む姿に笑ってしまったのですが、私も試してみまたら、足がつりそうでした(笑)


〈 民音音楽博物館の資料館 〉
国内外から集められた点数は、30万点を超えるそうです。
楽譜やスコアなど、貴重な資料が数多く保管されています。

最後に、見出し用の写真撮影です!!
ムジカノーヴァのスタッフの皆さん、上妻さん大変お世話になりました。
一生の宝物となった、楽しく貴重な一日でした。

取材を終えて・・・
今回の取材では、歴史的ピアノを見るだけではなく、実際に弾くことができて、とても貴重な経験となりました。
チェンバロから時代を追って、現代のスタンウェイまでを弾き比べてみると、楽器によってタッチや音色が違うのでびっくりしました。鍵盤の幅や長さも時代によって変わってきていましたし、黒鍵が寄木細工のようなものまでありました。
そして今日までは、ピアノの生みの親であるピアノを作る職人さんの気持ちなど考えたことはありませんでしたが、どんな思いで楽器を作りだしたのか、楽器に対してどれだけの愛情を注いだのかなどがひしひしと伝わってきて、今まで以上にピアノを愛おしく感じました。
また、300年前から現代に至るまでのあらゆるピアノを弾かせていただいた中で、20世紀のピアノでは、かの大チェリスト、パブロ・カザルスが使っていた1952年製のスタンウェイピアノや、2008年度グラミー賞を受賞したジャズピアニスト、ハービー・ハンコックが今日まで愛用してきた名器、1960年製のスタンウェイピアノまでも演奏させていただけた事は、夢の様でした。
そして、改めて自分の表現したい様に弾く事の出来るスタンウェイのピアノがいかに素晴らしいかを認識させられました。
ピアノという楽器は、発明されてから現代にいたるまでの間に、時代によって変化を続けていて、“楽器が変われば、その楽器のために書かれる音楽も変わっている” そのことを実感できた貴重な体験となりました。
今回お世話になった方々に、心より感謝申し上げます。ありがとうございました!!

〈 資料提供 〉
- 民音音楽博物館
- https://museum.min-on.or.jp/top.html
- 音楽之友社 ムジカノーヴァ
- http://www.ongakunotomo.co.jp/magazine/musicanova/
音楽之友社「ムジカノーヴァ」5月号では、特集記事を執筆させていただきました。
